Koji Nozaki's page

Q.野崎さん、何の研究をしているの?

A. 「長い鎖状の分子がかたちつくる巧みな配列構造」に関する研究をしています。


液体状態の高分子(ランダムコイル)    結晶状態のおける高分子の秩序配列形成

高分子ってご存知でしょうか?  身の回りにあふれているプラスチックやゴムを構成している分子です。 高分子は多数の原子(主に炭素原子)が鎖状に長く結合した巨大な分子です。 「鎖のような長い分子が材料の中でどのように配列しているか」、この問題は、 材料の性質を左右するとても重要なことです。私の研究はこの問題について探求 することです。

 ポリエチレン("PEと"表示,レジ袋等に使用)やポリプロピレン("PP"と表示, タッパー、食品包装、自動車のバンパー等に使用)は 代表的な結晶性高分子です。結晶高分子は融点(固体が液体になる、すなわち"融ける"温度)以上では上図左側のように不規則な形態(ランダムコイル)をとります。 融点以下になると、いわゆる"結晶化"を起こします。その際、"長い"という特徴 がもとで、上図右側のように鎖状分子は自身を折り畳みながら、規則正しい配列 を作ります。これが高分子の結晶です。 高分子の結晶化は古くから研究対象として興味を持たれてきましたが、未だにベールに 包まれた部分が多く残されています。

Q.このような研究は何かの役に立つのでしょうか?

A.「うーん、役に立ちます!」と言っておきます。

 固体材料中の分子配列はその材料の性質に直接影響します。すなわち、分子配列を制御 できれば、その材料の性質もコントロールできるわけです。このように、応用分野ではそれなりに役に立ちそうでしょう。

 さて、ここで、少し難しい話をしましょう。 分子の配列は自然に決まるものであり、人間がピンセットで摘みながら自由に配列を 変えるわけにはいきません。 人間が分子を意図的に配列させることができたとしても、それは一時的なものであり それが自然法則に反するものであればそのうちに崩れることになります。しかしながら、 分子の化学構造を少し変えるなど、ちょっとしたいたずらをすることで自然が決定する配 列を上手に修正して利用することは可能です。
 そこで、最も重要となるのは、注目している分子がなぜそのような配列をするかを 根本的に理解することでしょう。そこに必要となるの が自然の中に潜んでいる法則を理論的・実験的に解き明かすという物理学的手法による 探求です。

自然科学の目指すもの「役に立つ?」

 「役に立つ」と聞くと、なんだか私たちの生活を直接便利にするような「役に立ち方」 が期待されるようです。しかし、本来、「自然科学」の目指すものとは何でしょうか? それは、自然を探求し理解することです。未知のことを知ろうとすることなんです。 自然を知ること、それは、自然の中で生活している我々人類にとって、自然と共存しながら生きていく上ではとても大切なことです。 なぜ、大切かって?それは、みなさん、よく考えてみてください。きっと、わかると思います。 そのような意味では、一見、何の役に立ちそうもない自然科学の研究成果は、十分に役に立っているのです。 (もちろん、それは将来的には私たちの生活に直接役に立つこともあります。)

Q.最近は特にどのような研究に興味を持っているの?

A. 以下のようなテーマの研究を進めています。

1. n-アルカンミクロ閉じ込め系の相転移
 n-アルカンとは、炭化水素という物質で、鎖状分子の中で最も単純な構造の分子 です。膨大な鎖状分子群のモデル分子としても用いられます。さらには、さまざまな ところで使われるワックスの主成分でもあります。
 このようなn-アルカンをnm(ナノメートル:1 mmの1,000,000分の1)から μm(マイクロメートル:1 mmの1,000分の1)の小さな領域に閉じ込めたときの 結晶化・融解をはじめとした相転移現象の研究をしています。
2. 有機分子薄膜の構造評価とn-アルカン薄膜の相転移
 最近は、薄膜状態において鎖状分子がどのような方向を向いて配列するか (分子配向)に興味を持って研究をしております。ここで薄膜(= thin film)とは 横方向の大きさに比べ厚さ方向の大きさが非常に小さいものです。薄膜では、全体に占め る表面の割合が大きいので、通常の状態とは異なった性質を示すこともあります。薄膜に おいて、もともと"長い"という特別な形状を持つ鎖状分子が、どのように配列 するかはとても興味ある研究テーマです。
 一方、鎖状分子のような有機分子の薄膜は有機ELデバイス、太陽電池、有機トランジ スタ等、さまざまなデバイスに応用されれつつあります。しかしながら、その構造と特性 の関係が明確に示された例は多くはありません。おそらく、有機分子の配列(構造)が、 きちんとしていなくて、その評価が難しいのも一因だと考えられます。有機分子の特徴に よく合った構造評価法を模索する研究も行っています。
3. アイソタクチックポリプロピレンの秩序構造形成

 アイソタクチックポリプロピレンは代表的な結晶性高分子でプラスチック材料として 多く使われています。(生産量がポリエチレンに次ぐプラスチック。) その用途は、食品包装、文具、容器から、車のバンパーや内装までと幅広く使われております。
 アイソタクチックポリプロピレンの結晶構造(秩序配列)や結晶化(秩序構造形成) に関する研究を行っています。

<ちょっと前のトピックス>

1「分子はそれぞれ好き勝手に運動しているんじゃないって?」

「それって本当ですか?」

 結晶中の原子・分子は特別な場合を除き、静止しているのではなくさまざまな運動を しています。では、個々の原子・分子はまったく好き勝手に運動しているのでしょうか? 私たちは、結晶内の隣接する分子同士が互いに影響しあいながら運動していることを、 X線散漫散乱法という特殊な実験方法によって調べました。
 鎖状の分子であるn-アルカンには、融点(融ける温度)の直下の温度域に「回転相」 と呼ばれる結晶相が存在します。回転相では、分子運動が盛んになります。特に、 分子軸に沿った並進分子振動や、分子軸を回転軸とした回転運動の2つの特徴的 な分子運動が起こっていると考えられています。 私たちは、それらの分子運動に関して、個々の分子がまったく好き勝手に運動している のか、いやそうでなく、近隣の分子同士が示し合わせたようにお互いに影響しあって 運動しているのか(空間相関)を調べた結果、後者であることをつきとめました。

n-アルカン結晶回転相における分子の回転運動の空間相関

2「棒状の分子が基板の上に立ったり寝たりするってほんとう?」

事実です!
 私たちはn-アルカンという棒状の分子を使って、真空蒸着法という方法で いろいろな基板の上に膜を作製しました。そして、基板の上で分子がどっちを向いて 並んでいるかをX線回折法で調べました。
 その結果、基板上では分子は垂直に立ったり、平行に寝たりすることがわかりました。 一旦寝た分子も、少し温度を上げることによって垂直に立つことも明らかになりました。

n-アルカン蒸着膜に見られる分子配向


分子軸が基板に垂直(垂直配向:左)と分子軸が基板に平行(平行配向:右)

3「長さの違う棒状分子が基板の上できれいに積み重なった多層膜ができました。

Q1:どのような方法で作ったの?
A1:真空蒸着法によって炭素数が23のアルカン分子と25のアルカン分子を交互に Si基板の上に成膜しました。
Q2:なぜ、きれいな多層膜ができたことはわかったのですか?
A2:残念ながらアルカン分子を直接見ることはできません。X線回折法を使って推測し ました。分子が規則正しくきれいに積み重なっているとして、X線散乱強度を計算 してみると、実際のX線散乱強度と同じになりました。

C23-C25の交互多層蒸着膜

詳しいことが知りたい方は こちらをご覧ください。

updated 2011.05.07

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